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寝る子は育つ

アスリートが競技力を上げるためには、トレーニング、栄養補給、休養の3つがバランスよく行われる必要があります。今回は休養の部分、特に「睡眠」についてお話します。

睡眠は、アスリートが競技力を上げるために最も重要な活動の1つです。トップアスリートの中には、睡眠をトレーニングの一部と捉え、一定の時間、高い質をもって睡眠をとることの重要性を認識している選手もいます。学生アスリートの現場では、トレーニングの内容や栄養補給について監督やコーチから指導を受けることは多いと思います。しかし、睡眠のとり方について指導を受ける機会は少ないのではないでしょうか。アスリートにとって、睡眠は休養の中で最も重要な要素であるにもかかわらず、過小評価され、見過ごされている部分だと思います。

睡眠時間を増やすと、プレーの正確性、スピード、判断力が向上し、ケガのリスクが減り、精神面の安定化が得られます1)。アスリートの睡眠について様々な研究が行われていて、ある男子バスケットボール選手を対象とした研究では、5~7週間にわたって睡眠時間を10時間へ増やし、その後のパフォーマンスを調査したところたところ、シュート決定率が9%上昇し、約85mのスプリントも0.7秒ほど縮まり、パフォーマンスが向上し、心身の状態がよくなり、注意力や集中力が改善したと報告されています2)

人間の脳は、寝ているときも常に活動しています。睡眠中は脳の活動が休止しているのではなく、神経活動やホルモン分泌がリセットされ、その日に学習した内容を整理して、記憶を定着させるなどの活動も行われています。また睡眠中は成長ホルモンが多く分泌されます。成長ホルモンは、筋肉の成長と修復、骨の形成、脂肪の燃焼を促進し、疲労やケガからの回復にも大きく影響します3)。トレーニングは神経と筋活動の繰り返しですから、十分な睡眠をとることによって心身の疲労回復とともに、運動神経がより強化され、翌日のパフォーマンスアップにつながるのですね。アスリートにとって最も楽な活動こそ、最も有益な活動になり得るのです。

しかし、学生アスリートの方々は、学校生活、課題や試験勉強、恋愛、部活の遠征や大会などの長距離移動で十分な睡眠時間がとれないこともしばしばあると思います。睡眠不足や睡眠の質の低下は、身体能力だけでなく、学習能力や認知機能の低下、トレーニングによる疲労や怪我からの回復が遅れ、精神面にも問題を引き起こす可能性があります4)。アスリートに推奨される睡眠時間は、様々な研究結果から1日9~10時間とされています5)。必要な睡眠時間は選手個々によって異なるようですが、就寝後20分以内に眠り、目覚ましなしで起きられるなら、おそらく適切な睡眠時間を確保できているはずです。枕についたらすぐに眠くなり、目覚ましをかけないと起きられないようなら、睡眠不足の可能性があります。十分な睡眠をとることは、一朝一夕にできることではありませんが、睡眠衛生学的な視点から、睡眠を改善するために以下の事項が推奨されています。

  1. 規則正しく、就寝時間を決めて、長い睡眠時間を確保する。
  2. 寝る6時間前、刺激物(カフェインや辛い物など)を避ける。
  3. 夜遅くの過度な食事や水分摂取を控える。
  4. スマホやタブレットなどの電源を切る。
  5. ベッドは睡眠のために使う。眠れないときはしばらくベッドから離れる。
  6. 寝室を涼しく、暗く、快適に保つ。
  7. 朝は光で目を覚ます。日中は明るい光を求め、夜は光を避ける。

「寝る子は育つ」だけではなく、人は睡眠によって様々な恩恵を受けています。春を迎え、新たな決意をもってスポーツに取り組んでいることでしょう。より良い選手になりたいけれど、何を変えたらよいのかと悩んでいるなら、まずは睡眠のとり方を変えるだけでもよいのです。

1)Sleep and Athletic Performance. Watson AM.Curr Sports Med Rep. 2017 Nov/Dec;16(6):413-418. doi:10.1249/JSR.0000000000000418.PMID: 29135639 Review.

2)Mah CD, Mah KE, Kezirian EJ, Dement WC. The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball playersSleep. 2011;34(7):943-50. doi:10.5665/SLEEP.1132

3)O’Donnell S, Beaven CM, Driller MW. From pillow to podium: a review on understanding sleep for elite athletesNat Sci Sleep. 2018; 10: 243-253. doi:10.2147/NSS.S158598

4)American Academy of Pediatrics. “Lack of sleep tied to teen sports injuries.” ScienceDaily. ScienceDaily, 21 October 2012.

5)The Value of Sleep on Athletic Performance, Injury, and Recovery in the Young Athlete.Copenhaver EA, Diamond AB.Pediatr Ann. 2017 Mar 1;46(3):e106-e111. doi: 10.3928/19382359-20170221-01.

▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。