赤ちゃんは、体幹の使い方を知っている
英単語や歴史の年号を覚えるときに「語呂合わせ」という記憶術をよく使いますね。
今回は、私が学生のときに覚えたある語呂合わせについて紹介します。
「あくびわねりおすはつかばつたひと」¹⁾。
全く意味不明で呪文のような語呂ですが、これは赤ちゃんが生まれてから発育発達の過程で獲得する機能について、その機能を獲得する順に頭文字をならべたものです。
健康な赤ちゃんは、生後2ヵ月くらいからあやすと笑うようになり、3ヵ月で首がすわり、以降、1ヵ月ごとに様々な運動機能や認知機能を獲得していきます(図1)。
生まれたばかりの赤ちゃんは腹式呼吸をしていますが、まず腹式呼吸によって腹部の筋肉や横隔膜が発達していきます。すると徐々に体幹が安定しはじめ、5ヵ月ごろに自分の身体を回旋させて寝返りがうてるようになります。うつぶせの姿勢によって体幹の前後の筋肉を使うようになるので、体幹を支持する機能はさらに高まり、背骨や骨盤の筋肉が発達していき7か月ごろにおすわりができるようになります。おすわりを繰り返すうちに身体を支える背骨の周りの筋肉がさらに発達してくると、8ヵ月で左右の手足を交互に動かしながらハイハイをはじめ、一人で移動できるようになります。ハイハイの動作によって手足の筋肉が機能しはじめると肩甲骨の周りやおしりの筋肉が強化されるので、いよいよ二本足で立ち上がり、つかまり立ちや伝い歩きを経て、ひとり歩きができるようになります。
赤ちゃんの身体にはムキムキの筋肉はありませんが、この一連の過程で「体幹筋→手足の筋」の順に機能していくことによって、人間の本能である二足歩行が自然とできるようになるのですね。
ケガの予防やリハビリに用いる体幹トレーニングには様々な運動がありますが、その多くは赤ちゃんの成長過程でみられる動きと非常に良く似ています。
代表的な体幹トレーニングにバードドッグという運動があります(図2)。
四つ這いで体幹を保持しながら両方の手足を交互に曲げ伸ばしするバードドッグの姿勢は、赤ちゃんがハイハイをするときの姿勢と全く同じ。体幹を保持しながら股関節や肩甲骨の運動を行い、体幹機能を高める効果がありますが、これはみなさんが赤ちゃんの頃、自然と身に着けていた機能を再獲得、再教育するためのものだったのです。
図2.バードドッグ
片側の手と対側の足で身体を支えながら、反対側の手足をまっすぐ伸ばします。左右の手足を交互に動かす動作は、ハイハイの動きと同じ。
腰痛や股関節痛がある方や、膝にケガを抱えたままスポーツをしている方は、体幹機能が低下していることがあります²⁾。
たとえば、スポーツ選手が膝のケガをしてしばらく歩行ができなくなったとしましょう。
スポーツへ復帰するためには膝のケガを治すことは当然必要ですが、同時に二足歩行を効率よく行うための準備もしておかなければなりません。スポーツ競技へ復帰するためには、まず腹式呼吸を行い、徐々に体幹支持力を高め、股関節や肩甲骨の機能を向上させる段階的なトレーニングを行うことが大切です。
赤ちゃんの成長過程を知ることで、体幹トレーニングの重要性が理解できると思います。
そして、ケガの治療の第一歩は、まず「笑う」ことなのかもしれませんね。
1)国試マニュアル100%シリーズ 小児科
2)Wang XQ, Zheng JJ, Yu ZW,et al. A meta-analysis of core stability exercise versus general exercise for chronic low back pain.PLoS One. 2012;7(12): e52082
▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。