ランニング障害
ランニングやジョギングなどの「走る」という動作は、スポーツのあらゆる場面で行われます。二足歩行で移動する人間にとって、走ることはスポーツ活動のきほんの「き」にあたる動作ですが、走ることを長時間、繰り返し行っていると身体のある部分に負荷がかかり、やがて筋腱や骨に小さなキズができて痛みを生じることがあります。
ランニングに起因するケガのことをランニング障害(running-related injury : RRI)といいます。RRIは腰から下肢の広い範囲に生じることがあり、特に膝から下の部分に多いのが特徴です。今回は、代表的なRRIについて紹介します。
・膝蓋大腿関節障害
膝の前方、膝蓋骨(いわゆるおさらの骨)の周囲に生じる痛みで、RRIに最も多いケガ1)です。膝を支える筋肉や周囲の組織が硬くなることで生じやすく、膝窩筋という膝のうしろの筋肉や、膝蓋骨の下にある脂肪体(膝蓋下脂肪体)が正常に機能しなくなると痛みが生じることがあります。特に女性に生じやすいとされています。
・腸脛靭帯炎
腸脛靭帯という骨盤から太ももの外側を走行している大きな膜状の筋肉があり、膝の外側に刺激を受けることによって生じます。股関節を支えるお尻の筋力(中殿筋)が十分に使えていないとランニング時に骨盤が上下左右へ揺れてしまい、これによって腸脛靭帯に強い負荷がかかり発症します。(図1)
・内側脛骨ストレス障害
下腿の内側、脛骨の中央から下部の内側縁に沿って生じる痛みをMTSSといいます2)。ランニングによって下腿の筋膜や骨膜の炎症が起きたり、骨皮質へ直接的な刺激が加わることで発症します。以前シンスプリントと呼ばれていたケガもこれにあたります。(図2)
・アキレス腱障害
地面からの衝撃によってアキレス腱へ過度なストレスがかかり、痛みが生じます3)。アキレス腱に腫れや痛みを伴うものをアキレス腱症、踵の腱付着部に痛みが生じるものをアキレス腱付着部症と呼びます。またアキレス腱症が続き、線維のダメージが大きくなるとアキレス腱断裂が生じることがあります。
・肉離れ
筋肉が伸びた状態で収縮したとき(伸張性収縮)に生じるケガで、筋線維の損傷や腱の部分断裂がみられます。RRIでは太ももの後方にあるハムストリングスに最も多く生じ、サッカーや陸上の短距離走といった強度の高いスポーツで最も頻度の高いケガです。太ももの大腿四頭筋や内転筋、ふくらはぎの筋肉にも生じますが、筋肉のどの部分が切れたかによって治療期間が異なります。
・疲労骨折
ランニングによって骨への負荷がかかると小さな傷が生じ、これが繰り返されるとやがて骨折が生じてしまいます。RRIによる疲労骨折は、脛骨や足部に多く、特に下腿近位や中央部、足の中足骨に好発します。レントゲン検査を行うと、骨折線だけでなく骨膜反応や硬化像といった特徴的な所見がみられます。疲労骨折が起きた場合には数ヵ月間の休養が必要で、手術治療が必要となることもあります。(図3)
これらのケガは、地面やシューズの問題、筋肉のアンバランスや、疲労の蓄積、栄養不足も一因となります。十分な疲労回復や栄養補給も心がけて、ケガを予防しながらトレーニングを楽しみましょう。
1) The Proportion of Lower Limb Running Injuries by Gender, Anatomical Location and Specific Pathology: A Systematic Review. Francis P, Whatman C, Sheerin K, Hume P, Johnson MI.J Sports Sci Med. 2019 Feb 11;18(1):21-31.
2) Risk Factors for Medial Tibial Stress Syndrome in Active Individuals: An Evidence-Based Review.Winkelmann ZK, Anderson D, Games KE, Eberman LE.J Athl Train. 2016 Dec;51(12):1049-1052.
3) Achilles Tendinopathy: Pathophysiology, Epidemiology, Diagnosis, Treatment, Prevention, and Screening. Knapik JJ, Pope R.J Spec Oper Med. 2020 Spring;20(1):125-140. doi: 10.55460/QXTX-A72P.
▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。