文武両道
スポーツに励んでいる学生のみなさんは、休日や授業のない時間はどのように過ごしているでしょうか?日々のトレーニングで疲労した身体を休ませるためには、睡眠をしっかりとり、身体活動を少なくすることは確かに大切です。しかし、身体は休んでいるのになぜか「疲れている」と感じたことはないでしょうか?これは、正しく脳が休息できていないからかもしれません。今回は、スポーツ選手の脳の休息について探ってみたいと思います。
私が院長をつとめるクリニックでは、スタッフに対して休日には仕事のことは一切考えず、全く関係ないことに没頭して自分の時間を楽しむように伝えています。それは普段仕事で使う脳の部分をしっかり休ませて、休み明けにリフレッシュした状態でいてほしいからです1)。脳には、運動や思考、感情など、人間の様々な活動をつかさどる特定の部分が存在し、それぞれ密接にネットワークを作りながら活動しています。勉強しているときには記憶力や計算、情報処理に関係した部位が活発化し、スポーツをしているときには運動制御や空間認知に関係する部位が活発化しています2)。そしてある研究によると、脳のある特定部位を休ませるためには、それとは全く異なる、別の脳の部位を活性化させることが必要であるということが明らかになっています3)たとえば、仕事や日常生活で普段から使っている脳を休ませるためには、それとは全く異なる活動をして脳の別の部位を活発化させることによって、はじめて普段使っている脳の休息が得られるのです。つまり、脳の休息のためには、ただ身体を休ませるのではなく積極的に活動し、脳を別のことへ使う必要があるのですね。
野球やサッカーなどの球技スポーツでは、常にボールや相手を認識し、見て、判断して、実行するという脳の活動が行われています。この活動を繰り返し行うと徐々に脳が疲労してきます。スポーツで使っている脳の特定部位を休息させなければ、身体だけを休ませても「疲れた」と感じてしまいます。このため、スポーツとは異なる活動をすること、すなわち、勉強したり、全く異なるスポーツをしたり、娯楽や趣味に没頭することによって、スポーツで使う脳を休ませることができます。休日にはただ寝転んでいるのではなく、積極的に活動して脳の他のことに使ってあげましょう。スポーツばかりしている学生さんは、勉強をする時間をもっと増やしてもよいのです。それによって、スポーツで使うべき脳を休息させ、回復を促し、パフォーマンス向上にもつながると考えられています4)。勉強するともっと頭が疲れてしまうと思いがちですが、それは大きな間違い。勉強することによってスポーツで使うための脳が休まり、またリフレッシュした状態でスポーツを続けられるのです。これとは逆に、勉強ばかりしている学生さんは、もっと身体を動かし、スポーツに没頭できる時間を作りましょう。スポーツ活動は学業によい影響を与えることも分かっています2)。スポーツによって勉強で使う脳の部分が休まり、その後の勉強がはかどるはずです。脳の休息には、スポーツと勉強と、様々な活動をバランスよく取り入れることが大切なのです。
そして青春時代には心ときめく、恋愛も大切ですね。恋愛で使う脳の特定部位は、勉強やスポーツで使う部位とは異なりますから、普段使う脳の部位を休めていることにもなります。でも人を好きになるとその人のことで頭がいっぱいになってしまい、いつまでも脳の同じ部分だけを使ってしまうから、それはそれで疲れてしまうのです。
1)My Mind is Working Overtime-Towards an Integrative Perspective of Psychological Detachment, Work-Related Rumination, and Work Reflection.Weigelt O, Gierer P, Syrek CJ.Int J Environ Res Public Health. 2019 Aug 20;16(16):2987.
2)Physical Activity and Cognitive Functioning of Children: A Systematic Review.Bidzan-Bluma I, Lipowska M.Int J Environ Res Public Health. 2018 Apr 19;15(4):800
3)Effects of Rest-Break on Mental Fatigue Recovery Determined by a Novel Temporal Brain Network Analysis of Dynamic Functional Connectivity.Qi P, Gao L, Meng J, Thakor N, Bezerianos A, Sun Y.IEEE Trans Neural Syst Rehabil Eng. 2020 Jan;28(1):62-71.
4)Physical activity, diet and other behavioural interventions for improving cognition and school achievement in children and adolescents with obesity or overweight.Martin A, Booth JN, Laird Y, Sproule J, Reilly JJ, Saunders DH.Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 2;3(3):CD009728.
▶︎ こちらの記事は長野県のスポーツを応援するWEBマガジンSPOCOLOR(スポカラ)にて連載しているコラムを掲載しております。